譲渡後も運営以外に関わる。新たなM&Aのスタイルを確立 Strategic View~成功の秘訣に迫る~
株式会社スパイスワークス 代表取締役CEO 下遠野亘 × KSG(株式会社経営戦略合同事務所) 代表取締役社長 眞藤健一

「肉寿司」事業を運営のプロに委ねる

眞藤 僕からすると、スパイスワークス社は異次元にある会社です。一般的な物差しでは絶対失敗するだろうと思えることが、全部上手く行っていますよね。ただ、スパイスワークス社のお店は好きなので良く訪れています。お客様を楽しませる細かい仕掛けが一杯ありますからね。この機会に、何故成功しているのか、下遠野さんの本音を聞いてみたいと思います。そもそも、肉寿司という業態はどのような経緯で開発されたのですか。

下遠野 当社は2006年の設立以来、飲食店の設計・デザイン・施工を数多く手掛けてきました。クライアントは、焼き鳥屋や焼豚屋、和食屋、洋食屋、バルなどが多かったですね。自分たちも飲食店を運営しようということになって、既存のお客様と被らないようなビジネスがないかと考えたんです。王道はやりたくありませんでした。違うことを創造したかったんです。

100人のうち1人でも来てもらえれば良い。それだけでも、大変な数になりますからね。その方たちに100%刺さる事をやりたかったんです。肉寿司は、その最たるものでした。食材でいうと馬、調理法でいうと寿司、文化でいえば日本。しかも、馬肉の消費量は近年どんどん下がっていたので、生産者やメーカーから「何とか増やせないか」と言われ続けていました。「そこにフォーカスしよう」ということで肉寿司を考え付いたのです。名前は敢えて「馬肉寿司」ではなく、馬肉を前面に出さない「『肉寿司』という業態をつくりあげた」ことで成功した気がします。

眞藤 実際、メニューを見ないと馬肉だと分かりませんよ。肉寿司というのは、良いネーミングだったと思います。確かに、馬肉寿司だと名前でセグメントされすぎて、ここまで流行らなかった気がします。

下遠野 といって、最初から上手く行っていたわけではありません。出だしは、泣かず飛ばずでした。それが、1~2年で一気に広がりました。その理由の1つは、牛肉で事故が続いたからです。その度に、ユッケなど生肉の規制が強まり、唯一生肉を提供できる馬肉が注目されました。事実、牛肉で何か事故が起きる度に売り上げは伸びていましたからね。「これは行くな」と思いました。寿司業界のポートフォリオという点でも、良かったと言えます。肉寿司はメディアが寿司特集などをやる時に必ず変わり種として面白がって取り上げてくれました。

眞藤 当社で、その肉寿司のM&Aをファイナンシャルアドバイザーとして仲介させて頂いたのですが、どんなお気持ちで譲渡されたのですか。

下遠野 一番は、娘をお嫁に出したかったんです。僕らは飲食店の開発は得意でも、正直言って運営にはあまり自信がありませんでした。もともと、僕自身店舗を作る人はずっと作り続ければ良いし、店舗を育てる人は育てることに徹すれば良いという考えです。実際、米国では30店舗、50店舗、100店舗あたりで経営者を変えてギアチェンジを図ります。要は、肉寿司も運営のプロにバトンタッチしたんです。そのステージが得意な会社に任せればいいんだと考えるきっかけを今回KSGさんに貰えた。そんな気がしています。

眞藤 M&Aの案件として、今回はかなり変則的でしたよね。過去のM&Aでもなかなか例のないストラクチャーだと思います。

下遠野 スシローや和民の業態作りを請け負っていたこともあり、肉寿司を譲渡するなら大手だと決めていました。最初はファンドに譲渡しようかと考え、KSGさんに動いて頂いていました。ただ、僕がこだわりたかったのは、メニューなどを変え続けて、譲渡した後も進化させていくこと。過去の勝利の法則にしがみついてしまうと、どんどん陳腐化していくのは当たり前。やはり、老舗の域に入っていないものは変わり続けていかないとダメなんです。肉寿司もまさにそうでした。だから、変え続けさせてくれるところと組みたかったですね。譲渡したとはいえ、今でもコンセプト管理やメニュー開発はもちろん、店舗設計、立地開発も手掛けさせてもらっています。KSGさんには良いパートナーを紹介して頂き、最高の形で仲介してもらったと感謝しています。

眞藤 なかなか無いのですが、譲渡後も元の会社が支援しているという柔軟な関係が成り立っています。理想的なM&Aといって良いのではないでしょうか。効果的なオフバランスだと思います。

下遠野 娘を嫁に出したからと言って、関係が切れることはないじゃないですか。あくまでも、自分の子供なので。当然ながら、これからも関わっていくつもりです。もちろん、どこかから迎える息子も欲しいですね。育ててまたどこかに送り出すということがあっても良いと思います。

すべての業態を分社化し、ホールディングス体制を加速

眞藤 今後のスパイスワークス社の戦略についても聞かせてください。弊社でホールディングス体制への移行もお手伝いさせて頂いていますが。

下遠野 ぜひ、ホールディングス体制にしたいですね。今ある業態をすべて会社にできればと思っています。実際に、KSGさんにはスパイスワークスが最もポテンシャルを発揮できる体制になるよう指導頂いています。こうすれば価値を上げられるとか、融資を受けやすくなるとか。

眞藤 スパイスワークス社の最大の強みは、人事力だと僕は考えています。傘下のグループ会社群「ファミリーのれん会」には沢山の社長がいます。そういうシステムは中々できるものではありません。子会社の運営は簡単そうに見えても実は凄く難しいものですから。資本を持たない社長たちが、会社のために何かを仕掛けるというのは容易じゃない。でも、そこがスパイスワークス社では上手くできている。ファミリーのれん会をブラッシュアップしていけば、もっともっと面白い展開になると思います。資金調達力を高めるとか。そうすれば、より一層可能性が広がってきます。

下遠野 ファミリーのれん会のシステム化は、僕もやりたいですね。

眞藤 新しい組織形態ができあがる気がします。そこにダイヤの原石があるというか。より良い仕組みに変えれば、バージョンアップできるはずです。スパイスワークス社にとって大きなメリットになることでしょう。

下遠野 今後はファミリーのれん会の社数、店舗数をどんどん増やしていきたい。まずは、今年は2~3社、来年は3~4社を細胞分裂させたいと思います。

眞藤 ファイナンスの面でも、ファミリーのれん会でやるとスピード感が全く違う。のれん会でファンドを立ち上げるのも面白いですよね。KSGで運用・管理をやりますよ。そうした業態を一気に伸ばす舞台があるのは、スパイスワークス社ならでは。ただの企画屋とは違う事を理解してもらえると思います。ブランドだけでなく、組織もオンリーワンなものが作れるわけですから。そうした中で、下遠野社長がM&Aの活用について考えていることって何ですか。

下遠野 M&Aをもっと流動化させたいですね。譲渡するにしても、してもらうにしても。臨機応変に自由に動いていきたいと思います。そもそも、スパイスワークス社は、飲食のすべてに関わることをモットーとして事業を展開していますが、設計だけ、施工だけというパートごとにも対応しています。大切なのは、一番良いタイミングで一番良いパートナーと何をするかということ。自社ですべてをやるつもりは一切ありません。コンテンツとして業態や会社を捉え、それらがもっと良くなるのであれば、ベストパートナーと組みたい。この業界は水モノですからね。チャンスが流れてしまうのが最も怖いんです。結果的に良いものを届けることにこだわるべきだと思います。

眞藤 僕らの会社はM&Aのコンサルティングと、自己資金・ハンズオンによる企業再生事業がメイン。中でも、外食企業の案件数は日本でもトップクラスだと自負しています。今回も良縁を結ぶことができて良かったです。

下遠野 KSGが凄いのは、「M&Aをやらないならやらないで構わない。」というスタンスがあることです。おそらく、自信があるからなんでしょうね。「うちとしては、ここまでやり切ります。社長にこれだけのメリットをもたらします。やるんですか?やらないんですか?」とズバリ切り込んできます。そこが、僕には響きました。これから先もパートナーとして一緒に事を成していける。そんな予感を抱くことができました。

眞藤 嬉しい話です。本日はありがとうございました。