売り場は最高のマーケティングの場。2015年販売員削減は、その機会の損失になる
株式会社三越伊勢丹HD 代表取締役社長執行役員 大西 洋 × 株式会社ベネフィット・ワン 代表取締役社長 白石 徳生

株式会社ベネフィット・ワン代表取締役・白石徳生が気になる企業のトップを大胆訪問。
フリートークを交わしながら、成長の秘訣を聞き出すというシリーズ企画。
第19回は、新入社員として紳士服の販売員からキャリアをスタートし、社長の特命プロジェクト、
海外勤務、三越への出向などを経て、巨大組織のトップにまで登りつめた、
株式会社三越伊勢丹ホールディングス代表取締役の大西洋氏です。

飲み歩き続けた特命時代の経験が宝

白石 大西さんは伊勢丹という巨大組織に、新入社員として入社され、そこから社長にまで登りつめられました。大組織のなかで、どうすればトップまで登られるのか、その過程を教えていただけますか。

大西 最初は新宿の「男の新館」(現在のメンズ館)の紳士服カジュアルウェア売り場に配属されました。何年かたって、そろそろセールスマネージャーやバイヤーをやりたいなと思っていた時に、あるプロジェクトのメンバーに選ばれたんです。紳士服、婦人服からそれぞれ一人、課長と部長と室長の五人からなる社長の特命プロジェクトで、当時の伊勢丹吉祥寺店を米国バーニーズに勝てるような世界一の専門店にしようという大胆なものでした。結果的にはうまくいかなかったのですが、その間に営業戦略や店舗開発の仕事も経験でき、いまから思うと非常にいい体験でした。
それからマレーシアで4年間、帰国してからは紳士服のバイヤー、紳士服の商品部長、営業部長、統括部長を務めた後、経営企画部総合企画担当長のとき、執行役員にしていただきました。その後、立川店長時代に三越との統合の話があり、MD統括部長として1年4カ月の三越出向と続き、そして伊勢丹の社長になりました。

白石 いろいろな経験をされたんですね。そのなかで一番やりがいを感じたのは?

大西 店頭で販売の仕事をしていた時ですね。厳しい上司から、毎日のようにプレッシャーを受けながらのきつい仕事でしたが。

白石 販売の現場を肌で感じていらしたんですね。

大西 小売の原点は現場にあります。現場にいるからこそ、いろいろなことが分かってくるんです。

白石 特命時代はどうでしたか。現場とはずいぶん雰囲気が違うと思うんですが。

大西 そうですね。毎日のように明け方の3時、4時まで、プロジェクトの室長に連れられて、いろんな世界の人に会わせてもらってお酒を飲んでました。最初のころは、こんなことでいいのかと思いましたが(笑い)、本当に勉強になりました。人生や価値観について、視野がうんと広がりましたね。

白石 業界に関係なく、たくさんの人と会えたというのは大きいですね。

大西 インプットするだけじゃダメで、自分からアウトプットできなければ、相手から何ももらえないということにも気づきました。いまでも、一番影響を受けた上司は誰かと聞かれると、その時の室長と答えています。

リスクを背負わねば百貨店業界に未来はない

白石 百貨店業界はいま、厳しいじゃないですか。そういう環境のなかで同業他社に勝っていけるのは何が違うんですか。販売員の力ですか。

大西 それは大きいです。販売員を減らして一人当たりの売り場面積を広くし、あたかも生産性が上がったように見せる百貨店も多いようですが、うちでは売り場の人は減らしていません。売り場は最高のマーケティングの場、なんでわざわざ人を減らして、その機会を放棄するのかと。そんな手はないなと。

白石 三越さんとは、そういう考え方について共有できていたんですか。

大西 もともと三越では、伊勢丹よりもそういうベースがありました。一人のお客様に真摯に一対一でお応えするという「お帳場(お得意様)制度」がありましたから。

白石 しかし、お互い長い歴史を持つ、伊勢丹と三越が一緒になるわけですから、企業文化の違いに戸惑いはなかったんですか?

大西 統合前に三越に出向していたのでそれはなかったです。お互いの強みを理解し、足りない部分を補い、お客様が望んでいることを主語にして話していこうと。

白石 伊勢丹と三越、それぞれのブランドを残しています。

大西 (三越)銀座店と(伊勢丹)新宿店は2割くらいは重なっていますが、お客様の層が違うんですね。それでそれぞれの良さを残そうとしています。

白石 百貨店の戦略として、いま一番重視している点は何でしょう。

大西 二つあります。同質化しないことと、自分達でリスクを背負うこと、です。メーカーから販売員を派遣させて自社の販売員を減らし、商品も買い取らず、売れ残ったらメーカーに返品する。こういう商売が通用すればリスクを背負わずにすみますが、同質化を招くうえ、収益性も低くなります。これを逆転の発想で、商品も自分たちで作るようにしたんです。仕入れ商品の場合、定価は原価の4倍くらいに設定しないと利益が出ない。でも自分たちで作れば、同じ利益を出しても、質の良い商品を安価で販売できる。将来的には25%程度はこのような商品にしていこうと考えています。

ナンバー1販売員は役員並みの給料でもいい

白石 一人ひとりの販売スキルについてはどうお考えですか。

大西 店頭で一番売る人は、平均が2000万円、3000万円のところ、2億円、3億円と売ります。これを従来の評価にすると、この10倍の差は、ほとんど給与には反映されない。「それはいくらなんでもおかしいだろう、それだけ売る販売員には役員並みの給料を出そうよ」と言い続けていまして、来年度の導入を目指しています。

白石 確かにインセンティブとしての効果はありそうですね。いまわれわれも、インセンティブの分野のビジネスを手掛けていて、3兆円マーケットといわれています。うちの会社が企業に提供しているインセンティブポイントの場合、年間で200万円程度のポイントが貯まる人もいて、モチベーションアップにつながっているようです。

大西 高いモチベーションを維持させるのは、重要なことですよね。

白石 今日ぜひ伺いたかったことなんですが、今、百貨店業界では、BtoB、BtoC、それぞれどういう方向に向かっているんでしょう。

大西 企業向けのBtoBはデフレもあり下降線です。お得意様向けのBtoCも、お客様の高齢化もあり、トレンドとしては若干下向きですね。少しずつ伸びている感じがするのが、取引先企業の従業員向けとか、その会社のお客様向けのBtoBtoCでしょうか。

白石 個人的な印象では、百貨店ブランドの中でも、古くからのステータスがあるものは、いままた評価が高まってきている感じがするのですが。

大西 そうですね。三越の旅行は今非常に好調です。本当に価値のあるものは、多少値段が高くても認めるという流れがありますね。

白石 最後に、百貨店の経営者としていま、最も重要視すべきことはなんでしょうか?

大西 小売りの枠を越えて、いろいろな業態とコラボし、その場で得られた情報を大切にすることでしょうか。経営と現場が離れた瞬間にこの業態はダメになってしまいますから、常に経営のベースには現場が必要ですね。

白石 勉強になりました。今日はありがとうございました。