ゲームアプリ後発組でIPO 客単価の高いオタク市場に照準
株式会社エディア 代表取締役社長/CEO 原尾正紀

社員にはアニメファンが多くオタク層の志向性を肌感覚で察知

同じITベンチャーでも、ゲームアプリを開発するエディアの社員は、渋谷・六本木系のITベンチャーの社員とは異質な志向性をもっているという。現在の本社最寄り駅は神田神保町だが、1999年の設立当初よりずっと、秋葉原に近い神田エリアに本社を構えている。この立地と事業内容から、アニメファンが多く入社してくる。

広報の女性社員は「『君の名は。』を4回観ました。聖地の飛騨高山にも行ってきましたよ」と声を弾ませ、別の女性社員も「池袋の乙女ロードによく行きます」と、こちらも楽しそうに話す。こうしたアニメファンの社員が多いことは、同社の原動力になっている。

2016年4月に東証マザーズに上場した同社の主力はゲーム事業で、16年2月期売上高12億6100万円の70%を占めた。累計100万ダウンロードを超えた「蒼の彼方のフォーリズム」をはじめ「ヴィーナス†ブレイド」「麻雀ヴィーナスバトル」など人気ゲームをリリースしている。ライフサポート事業では、生活情報にエンターテイメント性を加えたコンテンツを開発。ナビアプリ「MAPLUS+声優ナビ」では好きなキャラクターを購入し、そのキャラクターが音声案内をする。

同社は、アニメファンのなかでもコアな層で構成されたオタク市場を対象にしている。

社長の原尾正紀氏は「当社の社員はアニメファンが多いので、コアなアニメファンの志向性の変化を肌感覚で察知できます。このことはキャラクターの考案をはじめゲームアプリの開発にとって、競争力になっていると思います」と推察する。

スマホの出現を機にゲーム事業に新規参入へ

ゲーム事業に参入したのは11年である。それまでは携帯電話向けサイトやポータブルナビの開発が主力だったが、スマホの出現を機に携帯電話市場やポータブルナビ市場が縮小、経常赤字に陥った。同社は思い切って事業転換を図り、ポータブルナビ事業から撤退して、スマホ向けコンテンツ開発に着手した。

原尾氏は「3・11の影響で世の中が暗かったので、コンテンツ提供会社として世の中を明るくしたいと考えて、ゲーム事業をはじめました。この年が当社の転機になりました」と振り返るが、後発組が苛烈な市場でどう地歩を固めてきたのか。

正面から競争しても勝ち目は期待できないと判断し、対象に据えたのは、万人受けする間口の広い市場でなく、コアな層が潜んで成長力も高いオタク市場だった。この市場がいかに拡大しているかは、オタク市場最大のイベントとも言われるコミックマーケットの来場者数に現われている。16年8月開催の来場者数は3日間に55万人、同12月開催では3日間で56万人に達した。

しかも、オタク市場は客単価が高いため、ユーザー数の少ないタイトルでも収益を生み出しやすい。そこで同社は①特定のジャンルに集中することでファンを一括して囲い込み、集客効率を最大化②競合が少なく先行者メリットを出しやすいことから、安定的にポジションを確保――という方針を打ちたてた。

この方針は的中した。業績は回復して、15年2月期に年間売上高9億9100万円、経常利益9000万円、16年2月期には12億6100万円、1億5700万円を計上。17年2月期には15億300万円、経常利益は新規案件への投資を行なうため4000万円を見込んでいる。

声優キャラクターを購入するナビで初めてのアイテム課金モデル

エディアがゲーム事業に次ぐ柱として強化しているのはライフサポート事業である。カーナビ開発などで蓄積してきた位置情報技術を活用した主力のスマホナビアプリ「MAPLUS+声優ナビ」は、基本無料だが好きな声優キャラクターを購入して自分好みのナビにカスタマイズできるスマホナビでは初めてのアイテム課金モデルを実現した。14年11月にリリースして累計20万ダウンロードを上回っている。これにつづく新サービスも開発中だ。

さらにスマホにつづく次世代モバイルデバイスでのサービス展開も構想している。原尾氏はこう展望する。

「当社はiモード、ポータブルナビ、スマホと一貫してその時代最新のモバイルデバイスのサービスを開発してきました。短期的にはスマホ向けゲームとライフサポートサービスが成長エンジンですが、中長期的にはウェアラブルデバイスやコネクテッドカーなどへのサービス展開を考えています」。

モバイルサービスの技術資産がストックされていることは、社員の職制と経験に裏打ちされている。社員約90名のうちクリエーターが90%(エンジニア39%、プランナー36%、デザイナー15%)を占め、エンジニアの30%が経験10年以上、プランナーの25%が経験10年以上とベテラン社員を揃えているのだ。

社内を「仕事好きの楽園」に

クリエーターの力を引き出すには、何よりも仕事を心底楽しみ、ひたすら没頭できる環境を形成するかどうか。その成否が決め手になる。原尾氏が掲げる組織運営のコンセプトは「仕事好きの楽園」である。大企業出身の原尾氏は「一般に大企業では仕事好きな人は浮いてしまう」と指摘し、同社の職場環境の反面教師と捉えている。

「仕事は収入源と割り切り仕事以外に楽しみを見出すのも、ひとつの考え方だと思います。しかし当社では、思う存分仕事に没頭でき、仕事を通じて仲間を増やしたり自分を成長させられる環境づくりに取り組んでいます」。

たとえば毎月オフィスで社内パーティーを開き、さらに毎年社員旅行も実施して社員同士の懇親を図っている。「若い世代は個人主義と言われていますが、実は絆を求めていることがわかります。会社は単に個々人が仕事をするだけの場ではなく大事なコミュニティでもあります。」(原尾氏)という。

同社の足跡を俯瞰すると、その時代の最先端のメディアを捉え、そこに対してニーズを先取りするサービスを提供するという一貫した方針で、時代に合わせた変化を遂げている。原尾氏の経営観は「目的と手段の分離と明確化、大事なのは目的と手段を混同しないことです」。独立を相談してくる若いビジネスマンにも「そもそも何がしたいの?」と問いかけている。

「やりたいことを明確にすればそれを実現する手段も自ずと見えてくる。起業はあくまで手段です。やりたいことを実現する手段として、場合によっては大企業の一部署で取り組んだほうがよいですし、起業しても個人事業の規模で取り組んだほうがよいかもしれません。」。

一方、すでに起業した人には、時々立ち止まって「そもそも何がしたかったんだっけ?」と振り返ることを薦める。周囲に流され目的と手段が入れ替わっていたりするからだ。

起業で問われるのは、何が儲かるのかではなく、何をやりたいのか。これがビジネスモデル以前のステップであることを、原尾氏は熟知している