組織をプロジェクト型に編成 上司・部下の関係がなく全社員が同格
株式会社アトラエ 代表取締役 新居佳英

キャリアアドバイザーの紹介業務をITで代替してプラットフォーム化

アナログ業務領域にイノベーション機会が多いことはわかり切っているが、突き抜けるにはコアコンピタンスが絶対条件だ。2016年6月に東証マザーズに上場したアトラエは、IT・Web業界に特化した求人メディア「Green」で、人材紹介市場にダイレクトリクルーティングを確立した。通常はキャリアアドバイザーが行なう紹介業務をITで代替し、求職者と求人企業を直接マッチングさせている。

社長の新居佳英氏は「当社は人材紹介企業でなく、転職プラットフォームを運営するIT企業だと思っています」と語る。

2003年に設立されたアトラエがGreenを立ち上げたのは2006年。当初2~3年は低迷したが、求人側・求職側双方のプロフィールデータ、アクションデータ、選考プロセスデータ、活動プロセスデータなどビッグデータの蓄積によって書類選考通過率を向上させた。この実績から知名度が上がって軌道に乗り、利用社数は4000社を超える。

書類選考通過率はマッチング精度の指標である。2011年に10%だった通過率は、2014年に19%、2015年に26%、2016年には28%に達した。Green経由の採用人数も増加を続け、過去3年の実績は2014年620人、2015年997人、2016年1416人を記録した。

アドバイザー不要のシステムで成功報酬は紹介会社の半額以下

キャリアアドバイザーを介せば能力や経験など属人性がマッチング精度を左右するが、Greenはビッグデータの蓄積で優位性を確立した。さらにキャリアアドバイザーを雇用しない分、コスト競争力を発揮できる。報酬体系は初期設定費40~100万円と成功報酬で構成され、成功報酬は勤務地によって30~90万円と開きがあるが、平均70万円である。

「紹介会社もGreenも求人内容はほぼ同じで、20~30代のIT人材を年収500万円前後の条件で仲介しています。この年収に対して、紹介会社の成功報酬は150万円なので、Greenを利用すれば半額以下で済みます」(新居氏)

こうした利点を見て、大手人材紹介会社が次々に同様のサービスを開発して、追随してこないのか。

新居氏は「GreenのようなWEBサービスは始めないだろう」と読んでいる。大手人材紹介会社は、大量の紹介コンサルタントを雇っている。紹介業務をIT化すると、コンサルタントとガニバリゼーション(共食い)を引き起こし、コンサルタントを解雇せざるをえない事態にも陥りかねない。だから侵食される懸念はないという。

2016年9月期年間売上高は前期比56・7%増の13億1200万円。営業利益は採用効果の低かったスマホへの広告投資を見直したことで313・9%増の3億9000万円、営業利益率は18・5ポイント増の29・7%と劇的に向上した。2017年9月期はGreenの拡大を受けて売上高17億6800万円(34・7%増)、営業利益4億9100万円(26・1%増)を見込んでいる。

Greenの優位性を裏付けるのは、ビッグデータを蓄積・解析する技術だけはない。新居氏のマッチングスキルが投入されていることが特徴に挙げられる。「私のノウハウと当社のテクノロジストのノウハウの合体がキモです」という。

試合毎にキャプテンが変更するサッカーチームの運営を参考

新居氏は1998年に上智大学理工学部を卒業して、成長期にあったインテリジェンスに入社した。説明会に登壇した入社2年目の東工大卒の社員が、まるで社長のように自社を語る光景に、起業家志向の新居氏は惹かれたのだ。だが、社員150人のベンチャー企業への就職に「教授、就職課、友達の皆に反対され、親からは『人生でただひとつのお願いをする。インテリジェンスにだけは入らないでほしい』と言われました(笑)」。

入社後はすぐに頭角を現し、3年目にみずから設立した子会社の社長に就任し、その3年後には本社の取締役に就任する気運にもなったが、理想の組織づくりをめざして独立した。「全社員がワクワク生き生きとしたチームをビジネスという世界でつくりたい」と企図したのである。新居氏が組織像として描くのはサッカーチームだ。

「サッカー日本代表チームではキャプテンマークを付ける選手が試合ごとに変わり、キャプテンがすべてを仕切るかといえば必ずしもそうではなく、ディフェンスを仕切るのは長友選手だったりします。また、仕切る役割ではないけれど一番高い報酬を得ているのが本田選手で、キャプテンマークを付けた選手を含めて全員を取りまとめるのが長谷部選手というように、選手間に上下関係がありません。私はそういう組織をめざしたのです」

アトラエには取締役に新居氏を含む3人が就任している以外は、全社員35人の間に上司・部下の関係が存在しない。組織は経営管理業務も含めプロジェクトチーム制で運営され、チームリーダーは業務によって入れ替わる。ヒエラルキーがないため、出世という概念もなく、フラットを極めている。では、人事評価はどう実施しているのか。

皆経営者主義組織の具現化策として全員に特定譲渡制限付株式を付与

毎年の評価時に、全社員が業務で自分に関係の深かった6人を選定し、6人から評価してもらうのだ。しかも6人の選定が自分の親しい社員などに偏らないように、取締役が選定の妥当性をチェックしている。新居氏は「他人の顔色をうかがうという行動が発生する余地をなくしました。たとえば私に社員を評価する権限はないので、私と仲良くなろうとしても意味がありません」と打ち明ける。

さらに2016年11月、「皆経営者主義組織」の具現化策として、新株発行によって全社員35人に対して特定譲渡制限付株式を付与した。3年の譲渡制限期間を設定して発行したのは普通株式3500株。発行総額は3300万円。全社員を対象にした付与は「国内ではじめての取り組みです」(新居氏)という。

「特定譲渡制限付株式は取締役を対象にした仕組みですが、当社の社員に経営者目線をもってもらうために全社員に付与しました。手続きを依頼した弁護士事務所からは『前例がない』といわれましたが、私は『前例がないからこそやるんだ!』と(笑)」

創意を尽くした組織運営が奏功して、社員の離職率は数年来ゼロに近い。転職支援を業とするアトラエから転職者が発生しないのは矛盾した現象にも見えるが、新居氏は「知識産業ではノウハウは組織でなく人の中にストックされるため、社員の退職はノウハウの流出につながります」と考え、定着を重視している。

当面、まだ伸び代の大きいGreenを主力事業に据えるが、新規事業として組織改善プラットフォーム「wevox」を事業化する。Greenの利用企業から「社員が定着しない状態で新規採用するのは、穴の開いたバケツに水を入れるようなもの」と悩みを聞かされたことが、開発の動機となった。職務や人間関係、承認・関心など9つの指標によって、部署、年代、職位など属性ごとにエンゲージメントを可視化し、3カ月単位でサーベイを実施して対策を打てるように運用する。

wevoxは、いわばエンゲージメント向上のPDCAツールである。Greenが人材紹介市場にテクノロジーを導入したように、組織改善に可視化とPDCAを導入して、アトラエはHRビジネスの属人性を科学に切り替えようとしている。