ライフスタイルビジネスで文化を共有 止まらないで“尖がった店”を作っていく
際コーポレーション株式会社 代表取締役社長 中島 武

5軒のホテル・旅館をオーベルジュスタイルで経営

外食企業のなかで際コーポレーションほど革新を連続させ、しばらく間を置くと、進化の現況が分らなくなる例はないだろう。一服感のないダイナミックな企業である。約1年半前に社長の中島武氏を取材したとき、外食ビジネスからライフスタイルビジネスへ転換する方針を説明された。すでに飲食店に加え家具・雑貨・衣料品の物販、ホテル・旅館経営など約360店舗を経営し、ウェディングのプロデュースも手がけていたが、とくにホテル・旅館経営は、インパクトをもって推進されている。

ミシュランガイド京都版に5年連続で掲載された「柚子屋旅館」(京都市)、全国初の公設民営型リゾートホテル「マルゲリータ」(長崎県南松浦郡)、金沢の市街地を一望する「緑草音」(金沢市)につづいて、リノベーションによる経営が2軒進んでいる。魯山人ゆかりの料亭旅館で知られる1890年創業の「山乃尾」(金沢市)、築180年の伝説の古民家を移築した「行人舎」(岐阜県高山市)である。

どれもが、レストランの併設など食にウエイトを置くオーベルジュスタイルで、それぞれ歴史や地域を投影させ、その施設が存立する意味を明確にしている。かつて中島氏は「全国どこでも旅館のリノベーションでは、京都風の雅を取り入れる風潮があるが、たとえば北海道の旅館に旅行客は雅を求めるだろうか?」と問いかけていたが、その風潮へのひとつの解答かもしれない。

しかし、宿泊業を手がける真意は別にある。背景となったのは外食市場の変質で、チェーン店と低価格業態がいよいよ行き詰まりつつあり、何かしら際立つ要素がないと顧客を誘引できなくなった。中島氏はこう打ち明ける。

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「旅館ビジネスは決して費用対効果が高くはないが、それぞれの旅館が築いた文化を私たちが共有し、アッパーな飲食店を作っていかないと厳しくなる。付加価値のある店を作らなければならないと思いながら取り組んでいる。これまで普通にチェーンストアのようになろうかな、そのほうが大人のビジネスなのかな、と思った時代もあった。しかし、考えてみれば非上場のオーナー企業の良さは、尖がった仕事が平気でできること。私自身はもう丸くなっているが(笑)、もう一度、尖がらなければならないのかなという気持ちだ」。

重点課題は食材の強化。豚と牛の仕入ルートを確立

ライフスタイルビジネスへの転換でグループ年間売上高は300億円を超えたが、転換の真意は事業の拡大よりも、むしろ深化に見て取れる。本業の外食ビジネスで重点的に深化させるのは食材である。

外食ビジネスの構成要素は、食材、不動産、金融、企画、店舗デザイン、調理、サービス、CRMなどで、同社は企画と調理に注力してきたが、バランスを取るために食材に重点を置いていく方針だ。「これまでは企画から食材を考えたが、これからは食材から企画を立てる」(中島氏)という。

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たとえば、茨城県産のブランド豚「瑞穂のいも豚」を屠場で買い付け始めた。輸入牛の買い付けでは大手の購買力に対抗できなくとも、屠場では入札なので同じ土俵で対抗できる。現在の買い付け数は月約30頭。同社の場合、とんかつ店で使用しない部位でも中華料理店で使用できる利点があるため、買い付け数をさらに増やし、とんかつ店を展開する計画だ。

牛肉では、すでに京都と芝浦の屠場で松阪牛、宮崎牛、京都肉を買い付けているが、新たなルートも開拓した。有機畜産の第一人者で知られる本田廣一氏が運営する興農ファーム(北海道標津郡)と提携し、アンガス牛の一頭買いを始める。豚肉と同様に多業態の利点を活かして、臓物ならビストロのメニューに煮込み料理を加えて訴求力を高めるというように、企画に結びつけている。

見世物小屋のような店は、いずれ化け物小屋に変貌する

食材から企画へのフローには、経営バランスの強化だけでなく、変革の推進という意図も込められている。中島氏は「私たちの店は止まってはいけない」と戒めるが、それは、たとえ一流店でも止まってしまうと時代からズレてしまうからだ。

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「高級料亭で働く50代の料理人には、20年前に親方から教わった方法で盛り付けている人もいる。脱皮できていないのだ。最近、ある高名な旅館の料理がちょっと古くなっちゃったなと思う機会があった。女将は年を取り、料理長の手法は昔のままで新しい料理を作らない。プライドも高いから他人の料理を勉強しない。だから止まってしまう」。

オーセンティックなスーツやワイシャツの形状が少しずつ変化するように、料理も変化するものだ。たとえば見せ方は賑やかなほうがよいのか、シンプルなほうがよいのか。シンプルにする場合はスタイリッシュでよいのかどうか。

高級店だけでなく、街場に展開する大衆店もアッという間に市場が変化してしまう。「紅虎餃子坊」の大ブームを経て、リノベーションを繰り返してきた中島氏には、人気チェーンの先行きが見えるという。店舗デザインや店員のパフォーマンスを売りものにした人気チェーンも、旬の時期を過ぎると2~3年後には寒風が吹きはじめる。まず東京の店舗から売り上げが落ち、やがて売れていた地方の店舗でも低落していく。

「見世物小屋のように設計・デザインした店なら、メンテナンスもしづらくて化け物小屋のようになってしまう。いまさら気がつくもの変だが、つねに変化を研究して、その時代の価値観をともなって利益を出せる店を作るか。マメに取り組むしかない」。

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個人店の勝ちパターンは、オタクとして極めること

この定理は、次世代の飲食店経営にも実践してほしいのではないか。若手経営者は中島氏を「大御所」と呼ぶが、若手をどう見ているのだろう。

「いまの若い経営者たちは賢明だから、自分の世界観で上質感のある店をきちんと作っていこうとしている。金儲けに走ってハッタリをかまして集客しようとする“飲食企業”と違って、若い経営者たちは堅実だから心配ない」。

そのうえで、勧めるのはオタクになることだという。

「オタク文化はすばらしいと思う。上っ面な業態ではなく、豚でも鳥でも魚でもオタクとして極めればよい。鯖料理の専門店なら、日本中の鯖を取り扱って、季節ごとに一番美味しい鯖を出すとか。そして、鯖に寄生するアニサキスは冷凍で殺虫できるが、うちの店は冷凍せずにこのように手作業で除去していると説明すれば、それだけで集客できると思う」。

外食業界ではベンチマークと称して繁盛店を模倣する方法がつづいているが、模倣である限り、極めることはありえない。だが極めれば、個人店でも局地戦なら大手飲食企業に対抗できる。これは、大手や有名店に対する有力な勝ちパターンである。

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