有名議員も輩出した老舗学習塾が次々に打ち出す教育を超えた「教育」
成基コミュニティグループ 代表兼CEO 佐々木 喜一

周囲の反対を押し切って始めた「野外体験学習」

成基コミュニティグループは、京都に本社を置き、関西では有名な老舗学習塾を経営する企業である。小・中学生を対象とした成基学園、大学受験の東進衛星予備校をはじめ、幼児教育の教室や親のためのコーチングスクールなど、傘下に4社、教室・教場数約130、会員数約1万5000人を擁する。創設以降、累計卒業者数は10万人にものぼり、そのなかには、衆議院議員前原誠司氏や参議院議員松井孝治氏も名を連ねている。

成基学園の前身は、現在の成基コミュニティグループ代表である佐々木喜一の父親によって1962年に創設された「あすなろ学園」。同グループは昨年50周年を迎えた。佐々木は二代目経営者である。

自らを「あほボン」だったという佐々木は大学卒業後、住友クレジットサービス(現三井住友カード)に就職した。がむしゃらに頑張ったうえ、中学生の頃からやっていた塾生募集のアルバイトで培ったコミュニケーション能力とスキルが大きくものをいい、営業成績はダントツだった。しかしやがて、自分を含めた高学歴の人間たちが本当に世の中に役立つ生き方をしているのか? いまの教育は、いわゆる一流有名企業に高学歴の人間を送り込んでいるだけではないのか? という疑問にとらえられ、1年半で退職。「真に社会に役立つ人材を輩出する塾経営」の構想を持って実家に戻った。

ところが佐々木のアイデアは、父親の経営方針に反するものばかり。ついに、父親と喧嘩し家を飛び出し、情報出版社のぴあに入社し、再びサラリーマン生活を送る。そして2年目、佐々木のもとに父の訃報が届く。和解せぬまま、死に目にも会えなかったことが悔やまれた。一方で、父へのわだかまりはほどけ感謝の気持ちも湧きおこったという。

佐々木は考え抜いた末、塾経営を引き継ぐことにする。そして次々と新機軸を打ち出していったのだった。

周囲の反対を押し切って実施した前例のない「野外体験学習」は成功を収め、以降教育プログラムの一環として定着した。親の子どもに対する真の願いと、ふだん親が子どもに言っていることのギャップに気づき、親のコーチングを始め、これもビジネスにつなげた。また、現在では主流となっている「個別指導」に本格的に取り組んだのも佐々木だった。

子どもには落ちこぼれもあれば吹きこぼれもある

生徒は次々来るのに最終的には4割しか残らない。退塾の理由は”ついていけない”。そうした現状を、なんとか回避できないかと考えての方策だった。優秀な生徒が、”自分はできない”という思いを抱いたままではよくない。なんとかするためには個別指導だ。落ちこぼれと同時に、その逆の”吹きこぼれ”の生徒もすくいとれる。佐々木はそう考えた。当時個別指導を行なっていた塾は全国でも1%ほど。しかも個別といっても先生1人に対して生徒6人が主流だった。それを佐々木は先生1人に対して生徒2人で始めた。二十数年前のことである。この「個別教育ゴールフリー」は波紋と評判を呼び、全国の塾指導者、韓国や中国からの見学者が訪れ、これがたちまち個別指導のスタンダードとなっていった。

見学当初、成功の秘密を簡単に公開するのには抵抗もあったが、子どもたちのためにと割り切った。

「たとえば個別指導にしても、儲けるために始めたのかと言えば違う。お金はあとからついてきたんです。要はお金というものの解釈。お金は感謝の形やと思うんです。問題があれば解決する。解決すれば相手が喜んでくれる。問題解決するところにビジネスがあるんです。これは宇宙の法則ですよ」

日本の中・高校生の70%が「自分はダメだ」と思っている現実

佐々木は、安倍首相が立ち上げた「教育再生実行会議」のメンバー15人の1人にも選ばれ、こと教育に関して、いまや日本で最も頼れる発言者の1人である。

いい学校を出ていい企業に入るという図式が崩れ、厳然としてあったある種のヒエラルキーも崩れつつある。

「塾業界も、現在、大きな転換点に差しかかっています。顧客の満足、すなわち、いい学校に入りたい入れたいというニーズを満たすだけでは、塾は衰退し劣化していきます。親たちの究極のウォンツは何でしょう? それは子どもに幸せな人生を送ってほしいということです。これからの塾は、それを充たす、あるいは満足を超えて信頼を得る存在でなければなりません」と佐々木は持論を展開する。

「教育の目的は二つだけです。それは、子どもの自立と未来への準備。日本の中・高校生の70%が”自分をダメだと思っている”。それをなんとか変えていかなくてはならない。自分をダメだと思っている中・高校生は韓国で40〜50%、中国、アメリカでは5%に過ぎないんですよ。それでいて日本の子どもは幸せ感を持っていて、結局、安心安全志向になっている」

成績を上げたい、志望校に入りたいなら、詰め込みで、つまり受け身でよかった。いままでの構造では、それでも会社や国が守ってくれた。だがこれからは違う。

「子どもの個としての自立こそ必要だと思うんです。子どもたちの自分はダメだと思う気持ちをなくしてやらなければいけない。そして人間力、つまり問題解決能力がありコミュニケーション能力のある子どもを育てていかなければ日本はダメになってしまいます。目指すのは、世界の人々を幸せにできるグローバル人材の育成です」

そうした、新たな目的への対応のために、佐々木は教育コーチングを導入、2001年からスタートさせた。全社員に2年間で約300時間(3時間×45週×2年程度)のトレーニングを施している。子どもの自立

を実現するため、同社は本気である。

教えず、コーチングする月3980円の塾を登場させた

これからの塾経営に関して「そこそこ、ほどほど、とかまあいいやんかでは絶対生き残れない。突き抜けなあかん」と佐々木は言う。 実際、統計上は同社のように50周年を迎えることができる企業は1000社のうち7社しかない。

「これからは、ナンバーワンかつオンリーワンでないと残っていけない」

そう言い切る佐々木は、これからは”ドミナント戦略”をとっていくという。決して全国展開を図るのではなく、関西を中心に”繁盛教場”を増やしていこうというのだ。

「究極は、この地域では塾を閉めたというのがあってもいい。つまり、選択と集中です。点としてある繁盛教場を増やして線にし、線を面にしていこうという戦略です。現在の約130教室を、目標としては300教室にしたい。現在、塾の授業料がだいたい月2〜3万円ですが、いまウチではひと月3980円の塾を増やしはじめているんです。この塾では、教えることをしないでコーチングをする。ゴールは志望校入学ではなく、教育の二大目的、自立と未来への準備ですから」

アルバイトとエデュケーションを複合させた「エデュバイト」という斬新な学生支援プロジェクトを誕生させるなどのユニークな発想を持つ佐々木のことである。そうした既成概念にとらわれない発想を武器に、どんな経営手腕を発揮していくのか目が離せない。なんといっても、教育は国の礎であるから。