「幸せから生まれる幸せ」── 苦しみのなかから生まれた理念の大切さ
株式会社リブセンス 代表取締役社長 村上 太一

わずか25歳1カ月で上場を果たす

2011年12月7日、国内初の成功報酬型アルバイト求人情報サイト「ジョブセンス」を運営するリブセンスが東証マザーズに上場を果たした。このとき、同社の村上太一社長の年齢は25歳1カ月。それまでの最年少記録はアドウェイズの岡村陽久社長の26歳2カ月で、その記録を大きく塗り替えた。それだけではない。翌12年10月1日には東証1部へ市場変更となり、キャンドゥの城戸一弥社長を抜き、東証一部上場会社の最年少社長となったのだ。その村上社長が「起業したい」と思い始めたのは、何と小学生のときだったという。

「父方の祖父が上場している運送会社の代表取締役専務を務め、母方の祖父は愛媛で画廊を営んでいました。そんな祖父たちの生き生きとした仕事ぶりに憧れる一方で、自分が何かをして多くの人に喜んでもらえると、いつも嬉しく思っていました。やがて、その嬉しさを自分の人生のなかで最大化していきたいと考え始めたとき、起業して世の中に大きなインパクト、よりよい影響を与えていくことが思い浮かんだのです」

そう語る村上社長は高校時代のある日、アルバイト先を探そうと、求人誌を見たり隣街まで貼り紙を探しに出かけたりした。それを今度はインターネットで確認したら、ほとんど情報が見当たらない。「不便だな」と思って理由を調べると、求人広告の掲載には出稿料が必要なことがわかった。それなら掲載時の出稿料を無料にしたサイトをつくることで、求人企業と求職者をスムーズにマッチングさせることができるのではないかと思いついたことが、現在のジョブセンスのビジネスモデルの原型となる。

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高校時代から村上社長は起業の準備を始め、コンピュータシステムの管理者である「システムアドミニストレーター」や日商簿記2級の資格を取ったという。そうした村上社長を応援しようと母親は、「カンブリア宮殿」などTVの経済番組を録画したり、情報収集のサポート役を買って出てくれたりしたそうだ。早稲田大学への進学を控えたある日、トイレのコルクボードに母親が貼ってくれた「早稲田大学でベンチャー起業家養成基礎講座が開講」の記事を目にした村上社長は、すぐに受講を決意。そして、講座の最後に行なわれたビジネスプランのコンテストで、温めてきたアルバイト求人サイトに関するプレゼンテーションを行い、見事優勝を勝ち取った。

そうして06年2月8日に産声を上げたのが、「LIVE(生きる)」と「SENSE(意味)」を合わせた社名のリブセンスなのだ。起業のメンバーは4名。サイバーエージェントの藤田晋社長の著書『渋谷で働く社長の告白』を読んで「創業時、週110時間働く目標を立てた」ことを知った村上社長は、ベンチャー企業の経営を早く軌道に乗せるのには長時間労働も厭わないことが必要で、それでも失敗する可能性があることなどを他のメンバーに話し、各人の覚悟のほどを確かめ合った。

主力サービスであるアルバイト求人サイト「ジョブセンス」がオープンしたのが4月16日。しかし、初月の手数料収入はわずか3000円ほどだった。当初は、会社四季報を見て片っ端から電話し、求人広告の営業に出向いた。一方、肝心のサイトには求職者がなかなか集まらない。「当初、サイトをオープンさえすれば、人は集まると思っていました。読みが甘かったのです」と語る村上社長は、サイトを見つけてもらいやすく改善を進めるのと同時に、クライアントである情報掲載企業の意見を聞くことに徹した。

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「そこであがってきたのが、採用が決まったときに課金が発生するのなら使いやすいのだが」という声でした。それまでは応募時に課金する形を取っていて、実際に採用できるかどうかわからない段階での課金がネックとなっていたのです。しかし、採用が決まったかどうかをチェックする手段がありません。そこで考え抜いた末に出て来たのが、『お祝い金』のシステムだったのです」

お祝い金はリブセンスがクライアントから得る手数料の一部を、採用の決まった求職者にプレゼントするもの。その金額は多いときには2万円にもなる。それなら求職者は採用が決まると喜んで申請し、リブセンスはクライアントへ手数料を請求できる。クライアントとしても、採用の成果がなければ無料なわけで、三者の間で”ウィン-ウィン”の関係が成立する。結果、07年3月からこの画期的な成功報酬型のサイトへリニューアルすると、求人情報掲載数、求職者数ともにうなぎ上りで増えていった。

後輩起業家の育成にも心血を注ぐ

実は、採用時課金のシステムへ移行する過程での苦しかった時期 に、村上社長は心労から白髪になり、一時は事業の売却すら頭のなかをよぎったことがあるそうだ。しかし、そこで思いとどまれたのは、なぜ自分が会社を興したのか自問自答するなかで、経営者として一皮むけることができたからなのだという。

「世の中に大きなインパクト、よりよい影響を与えていきたいと考えて自分は起業した。ここで諦めたとしても、違う形でまた起業を選択するだろう。だったら、もう少し踏ん張るべきだと決意しました。さらに、リブセンスの存在意義を考え続けるなかで、多くの人を幸せにすることで自分たちが感じる幸せを最大化する、『幸せから生まれる幸せ』という経営理念を初めて言語化できました。それからというもの、経営者である私にブレが生じることは一切なくなったのです」

起業というと目先のビジネスモデルの開発ばかりに目が向いてしまいがちだが、この村上社長の話はそれ以上に大切なものがあることを教えてくれる。そして、そうした村上社長の思いは、「あたりまえを、発明しよう」というコーポレートビジョンや、一風変わったロゴづくりにも波及していったそうだ。

かつてアルバイトを探す際には、有料の求人誌を購入するのがあたりまえだったが、やがてフリーの求人誌があたりまえの時代へ移行した。それがいまではジョブセンスによって、お祝い金をもらえるのがあたりまえの時代になりつつある。それというのも、既存の求人システムに疑問の目を向けて、お祝い金という新しいモデルを発明できたからなのだ。

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「ロゴには『はてな』と『しずく』が隠されています。『はてな』はあたりまえと思われていることを疑う視点が大切であることを示し、『しずく』はそうやって考 えたことを、故事成句の『雨垂れ、石を穿つ』のように、毎日小さな努力を積み重ねていくことで突き詰めていく姿勢を表しています。また、ロゴの上下のしずくを合わせて逆さにすると『?』マークになり、いつも常識に疑問を持とうということを示しているわけです」

リブセンスでは、新たな事業が次々と生まれている。08年には正社員転職サイト「ジョブセンスリンク」、10年には不動産賃貸サイト「door賃貸」や転職クチコミサイト「転職会議」。さらに、今年8月には医療情報サイト「治療ノート(β版)」をスタートさせ、これまで未整理で玉石混交だったネット上の医療情報を、医師のチェックを受けながら病気ごとにまとめ直し、適切な治療方法が選択できるようにサポートしている。また、中古不動産売買サービス「IESHIL(イエシル)(β 版)」や新卒就活サポートサイト「就活会議(β版)」も立ち上がっている。

そして、社員の「あたりまえを、発明しよう」とする基礎力を高める場として取り組んでいるのが「村上塾」だ。社内公募で選抜した12人の社員に、「評価額1億㌦以上の『ユニコーン企業』が150社ほどあるが、近年どのような会社が増えていて、その背景にあるトレンドとは何かを答えよ」といった宿題を課し、各自の発表内容について村上社長と塾生全員でディスカッションしていく。1カ月に1回、19時からエンドレスで行われる。それを6回続けていくなかで、物事を見る目を鍛え、新しい発明へと導いていく道筋も体得してもらうのだという。

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村上社長の人材育成は社内だけにとどまらない。13年4月から早大OBの若手起業家と一緒に寄付した「起業家養成講座」 がスタート。村上社長が自ら起業体験談を講演することもあり、毎年200名近い受講生が集まる。週末など事業の合間をぬって、起業を志す大学生や高校生向けにも講演している。また、同年12月にはスタートアップして間もない起業家の応援プログラム「STARTUP50」を、クックパッドの穐田誉輝社長らと立ち上げた。「私自身が、起業当時に穐田社長から50分のアドバイスをいただき、すごく影響を受けました。プログラムでは、選抜された起業家の方々に各々50分、彼らの悩み事への助言をしたり、事業の将来性についてディスカッションしたりしています」と村上社長は楽しそうに話す。

目下のリブセンスの業績を見ると、かなり厳しい局面にさしかかっていることがわかる。人手不足で、企業がお金をかけてでもアルバイトを採用したい時代に、採用時課金のシステムはマッチしていないのではないかという見方もある。しかし、村上社長は「モデル自体は陳腐化しておらず、むしろ進化させる好機だと考えています」という。実際に、新しいオプション開発に取り組み、徐々に成果が出始めている。また、今年3月には、初のM&Aとして海外ファッションECサイトを手掛ける株式会社wajaをグループ化。連結業績に寄与し始めている。

これからも既存、新規分野における「あたりまえを、発明しよう」に取り組むことで、「幸せから生まれる幸せ」を最大化させながら、リブセンスは社会的な存在価値をさらに高めていくことだろう。

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