「経営哲学」と「ビジネスモデル」の構築 起業家が起業家たる絶対条件
株式会社ラクーン 代表取締役社長 小方 功

30歳で中国に渡り自分を見つめ直す

「政府は『クールジャパン』を合言葉に、ファッションや地域産品などの輸出振興の音頭を取っていますが、はたして中小メーカーに可能なのでしょうか。海外の展示会への出展、英語での売買契約の締結、煩雑な通関手続き、空輸・船積の予約、それにL/C(信用状)決済が必要になることもあります。魅力ある製品や商品を持っていても、『ウチには無理』というところが大半だと思います」

そう語るのは、日本各地にあるメーカーと小売店をつなぐ卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」を運営するラクーンの創業社長の小方功氏だ。1993年に健康食品を輸入卸売りする個人事業主として創業し、98年にスタートした過剰在庫品の企業間取引サイト「オンライン激安問屋」で現在のEC事業の礎を築いた。2006年4月には東証マザーズ市場への上場を果たし、業績は17期連続増収、8期連続増益と〝成長曲線〟を描き続けている。

その小方社長が今年8月25日から開始したのが輸出サービス「SD export(エクスポート)」だ。海外の小売店から注文を受けたメーカーは、埼玉県内にある倉庫に商品を送るだけで、梱包、書類作成から出荷までの輸出業務を代行してもらえる。代金回収もラクーンが代行し、100%の支払いを保証してくれるので、安心して海外への卸販売が可能になる。

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スーパーデリバリーの会員である国内メーカー約1000社の内、半数以上がSD exportにも登録し、海外の小売店も1500店ほど集まっています。既に取扱っているアイテム数は12万を数え、さらに商品力を高めていくことで、海外の小売店の利用が加速していくでしょう」

事業立ち上げに際しての小方社長の信念の一つが「他に誰もやっていない新しいものであること」で、SDexportもそれに当たる。そして、そうした小方社長の起業の原点を遡ると、北海道大学の学生時代に招待された米国視察ツアーで、現地の起業家から「自分の向上心や好奇心が満たされる仕事が見つからなければ、自分で作ってください」とアドバイスされたことに行き着く。ただし、卒業してすぐの起業には至らず、コンサルティング会社に入社する。

「自分には起業するために必要な2つのものが足りないと思ったからです。まず『経営哲学』で、社員から『何のために働いているのでしょうか』と尋ねられたとき、明確に答えられるリーダーでないと、組織はまとまりません。もう一つは『誰に何を売るか』です。ビジネスモデルといっても複雑なものではなく、極めてシンプルなもので、ここを間違うと社員を幸せにはできないと考えました」

結局、小方社長は30歳のときにコンサルティング会社を辞め、中国・北京の語学学校に留学する。確かに、改革・開放政策で中国経済が成長のとば口にあったことも魅力的に映った。「しかし、それより何よりも、山籠もりではないですが、誰も知り合いのいない中国で一人になって、自分は一体どういう人間で、何ができるのかを真剣に考え、起業に向けて整理したかったのです」と小方社長はいう。

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半年もすると片言の中国語を話せるようになった小方社長は思索の傍ら、街中に出て現地の人の会話を楽しんだ。すると「面白い日本人がいる」と興味を持たれ、友だちの友だちを紹介されるうちに、めったには会えない現地のトップの人たちとの知遇を得るようになる。当然、その場では自分がどんな人間なのかを中国語で一生懸命に説明する。結果、そうしていくなかで、課題だった自身に対する洞察も深まったそうだ。

また、ある華僑の実業家と懇意になり、鞄持ちをしながら教えられたことも、小方社長の経営者としての大きな精神的支柱となっている。「日本人は相手の人が信頼できるかどうかを、本音の部分では学歴や勤務先などを見て決めています。しかし、彼らの考え方はまったく違っていて、信頼の対象はあくまでもその人、個人なのです。そして、その人と信頼関係を育むことに努力を惜しみません」と小方社長は語る。実は、ラクーンの事業はどれも、これまで積み上げられてきた顧客との信頼関係の上に構築されているのだ。

社員が自然と全力で走り出す組織

通常、卸問屋の多くは自社の効率化ばかりに目が向き、売れ筋商品ばかりを扱ったり、手間のかかる小ロットの取り引きを敬遠したりする。特にファションや生活雑貨では、メーカーが100種類の新しいアイテムを作っても、卸問屋が扱うのは売れ筋の10種類前後ということがざらにある。すると、メーカーの生産効率は悪化し、地方の小さな小売店は欲しいものがなかなか手に入らない。

そうした非効率や不便を解消するためにスタートしたのがスーパーデリバリーで、他の卸問屋の売り手優位な姿勢とは一線を画す。「全国各地の中小メーカーに直接足を運び、困りごとが何かに耳を傾け、その声を自分たちの〝教科書〟にしながら、自分たちが進む方向を見定めています」と小方社長はいう。国内約1000社のメーカーから毎日800を超えるアイテムの新着情報が寄せられているのも、その積み重ねに裏打ちされた信頼関係があればこそ。そして、そうした商品力に魅了された約4万5000店もの日本各地の小売店が、貴重な仕入れ先として利用しているわけなのだ。

まさに小方社長のビジネスモデルは、経営理念である「企業活動を効率化し便利にする」ことを画期的なサービスとして具現化し、メーカーや小売店に提供していくことに他ならない。だから小方社長をはじめ全社員が、どんな困りごとにも敏感であろうと常に好奇心を高め、そしていざ直面した困りごとが難しい内容であっても解決できるように、向上心を日々燃やし続けているのだろう。

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「世界中に日本の商品を売ろうよ」というビジョンを掲げ、2人の社員にSDexportの立ち上げを担当してもらう際もそうだったのだが、小方社長はいつも「これやってみてくれないかなあ」と相談・お願い口調なのだという。当の2人は輸出業務の専門家ではない。しかし、実現した暁には顧客に喜ばれる仕事であることがわかっている。だから好奇心や向上心を持って取り組めるよう計らうことが大事で、「君に任せた」というような命令口調である必要はないのだ。そうやって生まれた画期的な事業として、掛売り決済代行サービスの「Paid」、受発注を一元管理する「COREC」などもある。

「経営者は何も万能である必要はなく、自分の無力な部分を認め、できる人にお願いをし、素直に感謝すればいい。そこで上下関係にとらわれない信頼関係が、初めて生まれるのではないでしょうか。それには、この仕事をしたら、その先にどのような景色が広がっているのか、先々のビジョンを分かりやすく説明する能力も必要です。そうすることで、一人ひとりの社員はいつもワクワク、ドキドキしながら全力で走れるようになるのです」

この言葉こそ、小方社長の経営哲学そのものであるのだろう。小方社長が初めて社員を採用したのは創業から7年後のこと。前回紹介したように、経営哲学なくして組織をまとめることは覚束ないと考えるからである。また、そうした小方社長だけに、最近の若手の起業家のなかには事業計画書を片手に多額の資金を集め、人材も含めて大きく事業を始めたがる人が多いことに首をかしげる。

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「お金があるから成功するわけではありません。他人資本が多くなれば、目先の利益も追わなくてはならず、楽しい仕事ができなくなるかもしれない。何よりも大切なのは、自分自身の経営哲学を打ち立て、誰に何を売っていくかを明確にし、そこから決してブレないことです。そうしていけば、時間はかかっても、事業は大きくなっていくでしょう」

これから起業を目指す人、起業したばかりの人は、この小方社長の言葉にぜひ耳を傾けていただきたい。

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